特別セッション アートを共に語る会|笠原恵実子[アートでナイト]
[アートでナイト part4/After Richard Serra]
リチャード・セラは1960年台後半から、ゴムや鉛などの素材を用い、身体的行為を基に実験的インスタレーションやビデオ作品の発表を行いました。1967-8年に作成されたVerblistには、こういった行為に関係する108個の言葉がリストアップされています。これらの言葉を見ると、60年台から70年台にかけて変化していく社会状況を受け、芸術や彫刻の概念も拡張していこうとした当時のアーティストの動向が見えてきます。
After Richard Serraは、50年前のVerblistから派生し、リストにある言葉を再解釈すると同時に、新たな言葉を追加していき、現在の美術と社会を反映したVerblistを作成する試みです。今回のアートでナイトでは、私を含む数人のグループで共同制作される本作品の公開制作会議のようなものを行い、Verblistを作成するその過程に、是非みなさんの意見を取り入れたいと考えています。そして、最終的には、リストの言葉それぞれを基にビデオ制作を行い、インスタレーションへと繋いでいくプランを描いています。
この作品を制作しようと思った理由として、私がこの何年間か美術大学の教育に関わる中で、直接的に経験し思索した様々な事柄があります。それらはアーティストとしてのそれまでの活動とは全く異なる美術の認識でありました。セラがVerblistに連ねた美術(彫刻)の行為の多くは、今現在どのように共有され受容されているのか、そしてその先につなげていく行動をどのように模索するべきか、みなさんと一緒にご飯を食べながらお話しできたらと思っています。
資料:Richard Serra/Verblist
日程:2018年7月20日(金)19:30〜21:30
入場料:1,500円(ドリンク別)/学生:800円
アートでナイト part5[Absent Statue|不在の彫像]
昨年夏にアメリカバージニア州の小さな町シャーロッツビルで、KKKやネオナチ支持者とそれに反対する市民グループが激しく衝突する事件がありました。白人至上主義男性が車で市民グループに突っ込み、女性一人が死亡、35人が負傷するという事態となり、SNSを通じて瞬時にそのイメージが拡散されました。
KKKやネオナチ支持者らがシャーロッツビルで大規模集会を行っていたのは、市内公園にある南北戦争時の南軍司令官リー将軍像の撤去を市議会が決定したことに起因します。南北戦争とは奴隷労働に支えられたプランテーション経済の南部連合と、工業化によって新たな労働力を求めた北部連合によって争われた内戦であり、近代化に伴う産業形態や貿易制度の変化が大きな争点でありました。KKKやネオナチなどの極右団体は、黒人奴隷制度維持を主張した当時の南軍を白人至上主義と重ね合わせ、旧南軍旗を集会で用いています。彼らにとってシャーロッツビルのリー将軍像撤去は、白人至上主義のために戦った英雄像の撤去を意味したわけです。そういった解釈に対して、リー将軍同様南部連合であったジャクソン将軍の子孫が、バージニア州議会議事堂にあるジャクソン将軍像撤去を自ら求め、シャーロッツビルでの白人至上主義者の集会を踏まえ「南部連合の像が存在することによって、人種差別主義者に主張の拠り所を与えてしまうと分かった」と述べました。この公開書簡もツイッターで瞬時に拡散し、Monuments Must Goいうフレーズが生まれトレンド入りを果たしました。
全米各地にはシャーロッツビル以外にも南部連合に捧げられた像が何百と存在しますが、この事件をきっかけに、それらの彫像は大きな注目を浴びることとなりました。いくつもの地方自治体が彫像の撤去を決定し、また左翼グループが暴力的に彫像を排除する、ノースキャロライナ州ダラムの様なケースも起きています。人々が今まで止まって眺めることさえしなかった古びた彫刻の、その意味や歴史的背景、象徴性について考えることなったこれら一連の現象を、私はとても興味深く思っています。たくさんの意味不明な彫像がある日本においても考えるきっかけになればと思います。
私は10月末からノースキャロライナ州ダラムに行き、実際に彫像撤去に関わったアクティビストたちと話をする機会を持ちます。今回のアートでナイトではそれらの報告も兼ねて、みなさんと「Absent Statue|不在の彫像」について意見を交わしたいと考えています。
日程:2018年11月30日(金)19:30〜21:30
入場料:1,500円(ドリンク別)/学生:800円
アートでナイト part6[ 美術教育 ]
最終回のお題は「美術教育」として、“石膏デッサンの100年”著者の荒木慎也さん、“彫刻1:空白の時代” 著者・編集・出版の小田原のどかさん、御二方の参加をお願いし、みなさんとご飯を食べながらディスカッションを試みたいと思います。日本の美術の現状につきまとう不自然な感覚は、作品制作をする作家のみならず、それを企画する人たち、鑑賞をする人たちにも共有されるところでしょう。文部省美術教育、美術予備校教育、美術大学教育が絡んで形成される、総体としての「美術教育」、そこに私たち個々が抱く齟齬を対象化できないか、と考えています。もちろん世界中どの地域であれ抱える状況と問題はあり、日本特殊論として批評が成立するべきではありませんが、この四年間ほど日本の美術教育に関わったものとして、学生、社会人、美術に関わる全ての人とこのお題を共有したいです。ぜひ奮ってご参加ください。
日程:2019年3月15日(金)19:30-21:30
入場料:1,500円(ドリンク別)/学生:800円
笠原 恵実子 Emiko Kasahara
アーティスト。初期は身体を通じて女性と社会との関係性を考察する彫刻作品を制作。近年は性別や宗教、国籍や言語など社会を規定する制度とその状況についてフィールドリサーチを実施し、その記録を元に制度の曖昧性を示唆する作品を多岐に渡る手法で制作している。主な展示に、PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015、ヨコハマトリエンナーレ2014、『キュレトリアル・スタディズ04笠原恵実子−inside/outside新収蔵作品を中心に』(京都国立近代美術館、2010)、シドニー・ビエンナーレ(2004)、光州ビエンナーレ(2001)など。